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台湾初のUTMB、その熱狂と「氷」の衝撃:XTrail Kending by UTMB 走破記

導入:南国の風に誘われて

トレイルランナーにとって、海外のレースは常に「未知への憧れ」と「完走への不安」が交錯する特別な舞台です。特に、その土地の第一回大会となれば、エバンジェリストとしての期待感は一層高まります。2026年3月8日、私は台湾で初めて開催されたUTMBワールドシリーズイベント「XTrail Kenting by UTMB」のスタートラインに立っていました。

私にとって、この地を訪れるのは今回で3回目。リゾート地・墾丁(Kenting)の空気感は知っているつもりでしたが、UTMB ブランドを冠した今回は、これまでとは違う特別な熱気に包まれていました。

当日の気温は25〜26度。日本はまだ冬の余韻が残る季節ですが、現地は5月下旬から6月並みの初夏の気候です。しかし、空は程よく曇り、何より南国特有の強い風が吹き抜けていたことが幸いしました。この風がなければ、日本の冬から飛んできたランナーには過酷な環境になっていたでしょう。この「熱気と風のコントラスト」こそが、海外レースの醍醐味であり、最初の心地よい洗礼でした。

日本とは決定的に違う「フェス」としてのレース文化

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台湾のトレイルランニングシーンに触れるたびに感じるのは、レースが単なる競技ではなく、一つの「フェス」として成立していることです。日本の大会が持つ、規律正しくストイックな「スポーツ大会」という雰囲気も私は好きですが、台湾の盛り上げ方は非常にエネルギッシュで、ランナーを主役にする演出が実に巧みです。

私はこれまで「GO ASIA TRAIL」を通じて、Formosa Trail や Explore Your Backyard といった台湾の主要なレースを歩んできましたが、今回の Kenting もまた、期待を上回るハートフルなものでした。スタート前の高揚感、そしてゴール後まで続く力強い出迎え。運営とコミュニティが一体となって楽しむ姿には、理屈抜きに「走ってよかった」と思わせる体温が宿っています。

一種のフェスみたいな感じかな。日本だとどっちかというと真面目な感じのレースが多くて……台湾は盛り上げるのが非常にうまい。

この言葉に集約されるように、彼らのホスピタリティは言語の壁を軽々と越えてきます。それは、ベテランランナーであっても改めて初心に帰らせてくれるような、純粋なエネルギーに満ちているのです。

エイドステーションの常識を覆す「アイスキャンディ」の誘惑

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今回参加した 25km カテゴリーには、3つのエイドステーションが設置されていました。内容は非常に充実しており、台湾らしい「鍋貼(焼餃子)」や「香腸(台湾ソーセージ)」が振る舞われるなど、文化的な彩りも豊か。暑さゆえに熱い食べ物には手が伸びにくい面もありましたが、フルーツ、黒松沙士(シップの香りのするコーラ)、舒跑(台湾のスポーツ飲料)といった定番の補給食も完璧に揃っていました。

しかし、トレイル歴15年以上の私に、かつてない衝撃を与えたのはゴール手前 3km 地点、最後のエイドでの出来事でした。なんと、そこで提供されていたのは「アイスキャンディ」だったのです。

当初、残り 3km なら立ち止まらずに駆け抜けようと考えていました。しかし、エイド全体の異様な盛り上がりに引き寄せられるように足を止めると、そこには冷たいご褒美が待っていました。灼熱のトレイルで火照った身体に、氷の冷たさが染み渡る感覚。このサプライズは、肉体的なリカバリー以上に、心理的な幸福感を一気に引き上げてくれました。エイドスタッフと笑い合いながら味わったその味は、長年走ってきた私にとっても、忘れがたいドラマチックな体験となりました。

成長痛としての「輸送課題」と、運営の驚くべき柔軟性

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素晴らしい大会クオリティの一方で、今後の飛躍に向けた「成長痛」とも言える課題も見えました。それは、高雄(左営駅)から現地までの輸送能力のミスマッチです。

新幹線の発着駅である左営駅から現地まではバスで3時間弱。しかし、30分に1本の運行で、1台36人乗りという公共交通機関のキャパシティは、2800人のランナーを運ぶには明らかに不足していました。私自身、午前11時にバス停に到着したものの「2時間半待ち」と告げられ、ようやく 13:30 のバスに乗れたのは、ベテランとしての経験を持ってしても厳しい時間でした。※バス停に到着した時間がお昼前ということもあり、近くでランチが食べられたのは幸いでした。

特筆すべきは、大会後の運営側の反応です。私が自身の Threads アカウントでこの輸送課題について触れたところ、即座に運営関係者から「来年は選手専用のシャトルバスを運行する。だからぜひ来年も来てほしい」という前向きな返信が届いたのです。組織の若さと、フィードバックを即座に改善へと繋げる柔軟性は、この大会が今後アジアを代表するレースへと進化していくことを確信させてくれました。

装備と戦略:寒暖差を乗りこなす秘訣

日本の冬から台湾の夏へ。20度近い気温差に対応するため、今回私が頼ったのが「ALIVAL」という濃縮ナトリウム・カリウムの原液サプリメントです。暑さによる発汗で失われるミネラルを効率よく、かつ高濃度で補給できたことで、終盤にハムストリングが痙攣しそうになった際も、深刻な事態を回避して完走に漕ぎ着けることができました。冬の体から夏の体へ切り替わっていない時期の遠征には、こうした「原液」タイプの補給が強力な武器になります。

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また、レース後、普段は「荷物を増やしたくない」と冷静な私も、ゴール後の高揚感には勝てませんでした。迷わず購入したのは、大会公式アロハシャツ(1800台湾ドル/約9000円)。白、ピンク、紫の3色展開でしたが、リゾート地なら映えるであろうピンクや紫をあえて避け、日本でも日常的に使いやすい「白」をチョイスしました。スマートフォンのVisaタッチで決済を済ませたその瞬間、この大会の一部になれたような特別な満足感を得られたのは、現地の熱狂がそうさせたのかもしれません。

結び:次なる挑戦、50kmの地平へ

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「XTrail Kenting by UTMB」は、単なるコースの良し悪しを超え、台湾の文化とコミュニティの熱量を全身で浴びることができる稀有な大会です。運営スタッフの若々しいエネルギーと、ランナーを鼓舞するフェスのような空気感は、一度味わうと癖になります。

今回の25km走破を経て、私の視線はすでに来年の50kmカテゴリーへと向いています。より過酷な暑さの中で、どんなドラマが待っているのか。もしあなたが、言葉の壁を越えて全身で「楽しさ」を感じたいなら、来年のスタートラインに立ってみませんか?

20度以上の気温差を克服し、ゴール前で味わうあのアイスキャンディの味は、あなたのトレイルランニング史に刻まれる特別な記憶になるはずです。