先週末(6/21~22)に石川県加賀市の山中温泉で開催された日本初の by UTMB レースである「Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB(以下、加賀スパ)」について。
私自身は今回は選手としてもボランティアとしても参加は見送った身なので実際体験した話ではないのですが、いろんな記事やSNSの投稿、知人からの話などを総合すると、結構な数が炎上している状況である。特に海外からの参加者の意見が酷評の嵐で、正直「日本のトレイルランニングレースの評判をガタ落ちさせてしまった」という醜態の有り様です。
私自身、約10年アジアや欧州などの海外トレイルレースに参加した経験から申し上げると、ここまでひどいのは初めてだろうなと思うよ。加賀スパの運営会社、皆さんご存知の OSJ です。「OSJクオリティ」と揶揄されるぐらい大会運営が悪く、エイドの質も低い、そのかわり他のレースよりも安い、でもトレランレース運営会社の中でも最古の一つで、リピーターも多い大会です。
UTMB のフランチャイズに加盟したことで大会運営能力が向上して質の高いレースを期待していたのだが・・・蓋を開けてみたら OSJ クオリティをそのまま国際大会に持ち込んでしまったという日本のトレイルランニングレース史に大きな汚名を刻んでしまったといっても過言ではないだろう。
香港メディアによる酷評
一例を紹介すると、香港のスポーツメディアである「運動筆記」の記事です。50km にエントリーした香港人ランナーの体験を綴ったものです。いろんな意見が散見するが、大方この内容に集約されるのではと思う。
大会準備とスタート時の混乱:
- 大会前日に高温の中、会場へのシャトルバスを30分以上待つ必要があった。これはレース前の体力消耗につながる可能性があります。
- レース開始時も、当初は順調だったものの、山道に入ると道が狭く、すぐに30分以上断続的に「渋滞」が発生し、ランナーのペースを乱した。
エイドステーション(CP)での問題:
- CPでの補給食が大会の表示と異なっていた。例えば、17km地点の水場では提供されるはずのバナナが全くなかった。
- 水分の補給不足や品質の問題も指摘されており、天候が暑かったため、多くのランナーが頭から水をかぶって体を冷やしていた。また、補給所で提供されたコーラが室温であったり、カレーライスが塩辛かったり、スイカは頼んで初めて配られたりと、不十分な提供体制だった。
- 10kmもの間、水場がなかった区間があり、途中で多くのランナーが水分不足により失速し、休憩せざるを得ない状況に陥った。
コース上の危険と指示の不明確さ:
- 第二の大きな山を越えた後も、予想に反して険しい上り下りが続き、滑りやすい下りや危険な細い道も存在した。
- ランナーは終盤でタイムを気にして下りを急ぐ中、転倒する人が続出した。
リタイア(DNF)時の対応の悪さ:
- 45km地点のCPでは、多くのランナーが座り込んで休憩しており、雰囲気も悪く、励ましの言葉もなかった。
- 大会スタッフは、DNFを検討しているランナーに対し、夜間になり、ここから先はゴールまで引き返せないことを強調し、ランナーを不安にさせた。7媽を含む複数のランナーがこの言葉に恐れを抱き、リタイアを決断した。
- リタイアしたランナーの回収に関して、スタッフは「いつ車が来るか分からない」と回答し、混乱を招いた。
- ランナーは午後6時40分から午後8時まで1時間20分以上も車を待ち続けた。
- シャトルバスが少なく(22人乗り1台、7人乗り2台、11人乗り1台)、一度に運べる人数が限られたため、多くのランナーが長時間待機することになった。7媽でさえ午後9時10分まで待ってようやく会場を離れることができたが、数十人がまだ待っていた。
ゴール後のサポートの欠如:
- 7媽が午後9時40分にゴールに到着した際、荷物の受け取りや交通手段に関するスタッフの援助が全くなかった。
- シャトルバスのチケット購入(1500円)も急がされ、5分で臨時駅へ向かうよう指示されたため、不慣れなランナーにとっては困難な状況であった。
- ホテルに戻るまでに午後11時までかかり、リタイア後も不必要な疲労とストレスが加わった。
全体的な混乱と高DNF率:
- 100kmの部では、食料や水の配給が不足していたという情報もあり、状況はさらに悲惨だった。
- 結果として、100kmの部では1164人の参加者のうち709人(約61%)がDNF(途中棄権)という非常に高い棄権率を記録した。これは大会運営の不備が直接的に多くのランナーの完走を妨げたことを示唆している。
- 大会後、多くのランナーが主催者を激しく非難し、この問題は現在もSNSなどで議論されている。
日本人ランナーとの温度差
では、参加者の多くを占める日本人ランナーのご意見というのは、もちろんこの運営の酷さに非難している人もいるのだが、海外の参加者ほど激しくはないという印象です。もちろん、加賀スパをエントリーするだけの走力があるため、過去にOSJのレースを参加したことのある方が多く、海外ランナーと比較するとOSJクオリティに免疫があるのはあったのかもしれません。
これは日本人の国民性もあるのかもしれないが、「次回に期待」であったり、ボランティア参加されていた人の大会の裏側情報もあったりなど、そういった運営の大変さも情報も伝わっているので大ぴらに批判する人は、比較的少ない印象ですかね。
ただ、海外レースを経験している日本人ランナーは加賀スパに対する今回の大会運営状況はひどく批判している人も多いのは事実です。私もこちらサイドです。海外からランナーを誘致するような大きな大会の運営能力に関しては、日本の大会運営能力はそれほど高くないと思います。香港や中国の大会のほうが運営能力が高く、安全対策もずっと進んでいる。海外といってもすべてが該当するわけではなく、大会オーガナイザー次第ではあるのだが、日本のオーガナイザーはもっと海外レースのマネージメント方法を学ぶべきだと思う。これは以前から感じています。
また、トレイルランニングやランニングを専門とする日本のメディアに関しても、今回の加賀スパの運営の問題に関して、現時点で一切指摘がないのは非常に残念です。なんで運営の問題に関して Youtube やオウンドメディアで指摘しないのか不思議でならない。猛暑で水不足、そして熱中症という状況など安全面を考えると、問題点は指摘すべき。こういったメディアの指摘があってこそ、日本のトレイルランニングレースの質を上げるきっかけにもなるので、ぜひともプレッシャーを掛けてほしいところ。
圧倒的にスポンサー不足

そもそも、なんでここまで運営がひどいのかというと、結局は資金不足。
スポーツイベントの本質は広告ビジネスで、広告主(スポンサー)がいて成り立ちます。プロ野球やJリーグ、プロレスとかも企業スポンサーがいて成り立つし、マラソン大会も多くの企業スポンサーがいるから運営ができる。ランナーが支払う参加費は、ランナーに直接かかる経費(計測チップ、ビブ、参加賞など)に当てられて、収益の当てにしていません(ランナーだけの参加費だけでは大会運営ができない。自治体プレゼンツだと、一部は税金が投入されるけど・・・)加賀スパのスポンサーは、他の大会に比べても非常に少ない。HOKA、SUUNTO、ニッケ、パワースポーツの4社。うち、HOKA と SUUNTO は by UTMB 全体のメインスポンサーでこれは上から降りてきているもので、パワースポーツは OSJ の運営母体企業(身内です)で、実質新規で獲得できているのは繊維メーカーのニッケだけです。営業努力不足です。
飲料メーカーや食品メーカーにスポンサーについてもらったら、少なくとも彼らからエイドで出すようなドリンクや食べ物は提供してくれるだろうから、エイドの食べ物やドリンク不足は解消できたと思う。特に大手の飲料品メーカーの数社に声かけたら、by UTMB クラスとの国際的な大会であれば、どこか1社積極的にやってくれると思うんだけどね・・・
ニッケからどれだけスポンサー費をいただいているのかは不明ですが、そこまで大きな金額ではないと思うし、資金があればもっとエイドを充実させられたとは思いますね。
過去にクラファンをやってましたが、186万円しか集まらなかった。全額もらえるわけではなく、クラファン事業者に手数料(Campfireの場合は合計22%、つまり40万円程度)取られる上に、お返しの商品も送らないといけないので、手元に残るのは100万円未満。
正直、クラファンにリソースを割くのなら、足をつかってスポンサー周りに行ったほうがよかったのではと思います。
本日はここまで